キアンゾウサウルス: “ピノキオ・レックス”と呼ばれる長い鼻のティラノ類
ティラノサウルスの繁栄と近縁種
最新の恐竜研究では、白亜紀末期ごろの地球上ではティラノサウルスに近縁な一族が世界中で大繁栄したといわれている。今回は、見た目が非常に特徴的なティラノの近縁種を書いていく。
発掘の背景: ピノキオ・レックス
今回の主役は「キアンゾウサウルス」、別名「チアンジョウサウルス」。名前の意味は「カン州のトカゲ」。正式名称は「キアンゾウサウルス・シネンシス」。約7200万年~6600万年前の白亜紀後期末期の中国に生息していたとされる、ティラノサウルスの近縁種である。体長8~9m、体重800㎏の大型肉食恐竜だった。
発見の経緯
2014年に、中国は江西省のカン州の工事現場で作業員が偶然化石をショベルカーで発掘し、地元の博物館に持ち込まれた。発見されたのは、骨盤と複数の尾椎の化石、頸椎とそれに連なる数個の背骨、そして破片上になりながらほぼ完全な形をとどめていた頭骨だった。その特徴的な顔から、うそをつくと鼻が伸びる「ピノキオ」に合わせて、「ピノキオ・レックス」という通称もつけられている。
特徴的な長い口先
ピノキオレックスの最大の特徴は、その長い鼻先(吻)である。鼻先は長さ90㎝、幅20㎝、高さ25㎝と非常に長いものであり、そこには数本の歯の化石もあり、歯はティラノサウルスとは違い、長く薄い歯が収まっており、ティラノ程のパワーはないとされる。それゆえ大型の獲物を捕食するのではなく、小型の獲物か魚類を中心に食べていたと推測されている。
食物連鎖での位置
食物連鎖の地位では、頂点的な存在ではなく中間を成す存在であった可能性が高いという。カン州市で発見されている化石では、本種の生存時代にはトカゲ等の小動物の化石が多数発掘されており、豊かな森林や豊富な水源にも恵まれており、小型恐竜や大型恐竜も多く生息していたという。
新たなティラノの系統の発見
本種の発見により、ティラノ類の新たな系統が判明したという。実は鼻先の長いモンゴルのティラノ類「アリオラムス」がこれ以前に発見されていたが、その化石はいずれも亜成体(未成年)の個体のもので、長い口先は幼体の時の一時的な特徴であり、成体になると短くなると考えられ、新種と確信づけられなかった。しかしキアンゾウサウルスはアリオラムス以上に大きく、化石の特徴からも成体だと分かったが、にもかかわらず鼻先が長いことで、アリオラムスが独立した新種の可能性が高まった。これによりアジア圏内ではいまだに知られていない、独自のティラノ類が一大勢力を築いていた可能性が高いという考えも浮上し、またも恐竜研究を躍進させることとなった。