ラプトレックス:ティラノサウルス科の原型を探る
ラプトレックス(Raptorex)とは?
ラプトレックス(学名:Raptorex)は、ティラノサウルス科に属する疑問名の恐竜で、モンゴル国または中国北東部で発掘された幼体の標本が1体のみ化石として発見されています。模式種は2009年にポール・セレノらによって記載されたラプトレックス・クリエグスティニ(Raptorex kriegsteini)です。この属名は、ラテン語で「盗賊」を意味する “raptor” と「王」を意味する “rex” に由来します。種小名は、ホロコーストの生存者であるローマン・クリーグスタインにちなみ、標本をシカゴ大学に寄贈したヘンリー・クリーグスタインの父に敬意を表して命名されました。
発見と研究の歴史
ラプトレックスの化石は、中国の義縣層から産出したと当初考えられていましたが、盗掘されたためその起源は明確ではありません。後の研究によれば、ラプトレックスの標本は白亜紀前期のものである可能性が低く、むしろ白亜紀後期のティラノサウルス科の幼体に酷似することが示唆されています。化石の発見から現在まで、ラプトレックスはタルボサウルスの幼体である可能性が高いとする意見が多くの研究者から出されています。
形態と特徴
ラプトレックスの唯一知られている標本は、ティラノサウルス科の幼体の標本と同じ基本的なプロポーションを示しています。頭骨は比較的大きく、硬く構成されており、長い脚は走行に適しており、前肢は小型で2本指でした。これは、基盤的なティラノサウルス上科であるディロングなどと対照的です。ラプトレックスは、小型ながらも強力な捕食者であったと考えられています。
成体のラプトレックス・クリエグスティニは全長3メートル、体重65キログラムと推定されており、ホロタイプ標本 LH PV18 は2.5メートルで、3歳で死亡しているとされています。その骨格は、比較的小型のティラノサウルス科のプロポーションを持っており、頭骨の形状や骨の構造から、強力な咬合力を持っていたと考えられます。
発掘とその後の調査
ラプトレックスのホロタイプ標本は、モンゴル人の化石商人からアメリカ人のビジネスマンが日本の東京都で購入し、アリゾナ州ツーソンでのジェム・ミネラル&フォッシルショーで再び売買され、その後ヘンリー・クリーグスタインに渡りました。クリーグスタインはポール・セレノに連絡を取り、セレノのチームはこの標本を新種として記載しました。
しかし、その後の研究で、ラプトレックスが実際にはタルボサウルスの幼体である可能性が高いことが示唆されました。2011年には、ラプトレックスとタルボサウルスの幼体に多くの共通点があることが確認され、さらに化石が白亜紀前期ではなく白亜紀後期のものである可能性が高いとされました。
重要性と結論
ラプトレックスの発見は、ティラノサウルス科の進化に関する重要な洞察を提供しています。特に、小型の段階で既にティラノサウルス科の特徴を持っていたことが確認された点は、これらの恐竜の進化過程を理解する上で非常に重要です。しかし、ラプトレックスの標本は盗掘されたものであるため、その正確な起源や分類についてはさらなる研究が必要です。
今後の研究によって、ラプトレックスがティラノサウルス科の進化においてどのような位置を占めていたのか、さらに詳しい情報が得られることが期待されています。