恐竜は泳げたのか?約1万8000点の足跡が明かす水中移動の謎
恐竜と聞くと、広大な平原を歩き回る巨大な姿を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、恐竜たちは陸上を歩くだけの生き物だったのでしょうか。
川を渡るとき、湖に入り込んだとき、あるいは水辺で獲物を探すとき、恐竜たちはどのように移動していたのでしょう。
2025年12月、南米ボリビアで発見された大規模な足跡化石群について、新しい研究が発表されました。そこには通常の歩行痕だけでなく、水中で移動したと考えられる恐竜の痕跡が数多く残されていたのです。
今回は約1万8000点の足跡・遊泳痕を手がかりに、恐竜の泳ぐ能力と、その行動を復元する研究の最前線を紹介します。
この記事で分かること
- 恐竜は本当に泳げたのか
- 歩行痕と遊泳痕にはどんな違いがあるのか
- ボリビアの足跡化石が明らかにしたこと
- 現在も残る科学的な謎
恐竜は本当に泳ぐことができたのか?
結論からいえば、少なくとも一部の非鳥類型恐竜は、水に浮いた状態で足を動かし、水中を進むことができたと考えられています。
ただし、「泳げること」と「水中生活に適応していること」は同じではありません。
現代でも、シカやゾウなど、本来は陸上で生活する動物が川を泳いで渡ることがあります。恐竜にも、こうした一時的な水中移動が可能だった種類がいたのでしょう。
また、現代の鳥類は恐竜の系統に含まれます。ペンギンやカモの存在は、恐竜の進化の過程で水中移動能力が多様化したことを示しています。
今回注目するのは、鳥類以外の獣脚類恐竜が残したと考えられる化石です。
約1万8000点の足跡が発見されたボリビア
カルレラス・パンパとはどんな場所か
南米ボリビアのトロトロ国立公園には、「カルレラス・パンパ」と呼ばれる足跡化石産地があります。
ここには白亜紀後期の恐竜たちが残した膨大な移動痕が保存されています。
2025年12月3日に学術誌『PLOS ONE』で発表された研究では、約7,485平方メートルの調査範囲から、多数の獣脚類の歩行痕と遊泳痕が報告されました。
なぜこれほど多くの足跡が残ったのか
足跡が化石として残るには、いくつもの条件が必要です。
地面が硬ければ足跡は形成されにくく、反対に泥が柔らかすぎれば輪郭が崩れてしまいます。
適度な柔らかさの地面に足跡がつき、その後、堆積物で覆われることで保存される可能性があります。
カルレラス・パンパの研究では、水辺の環境や堆積物の状態が、足跡の形成と保存に重要な役割を果たしたと考えられています。
足跡が残されたのは恐竜時代のいつ頃?
今回の化石は、恐竜時代の最後にあたる白亜紀後期のものです。恐竜たちの歴史の中で、どの時代に位置するのかを整理してみましょう。
恐竜時代の年表
※年代は概数。各時代の長さを比例表示したものではありません。
白亜紀にはティラノサウルス類、角竜類、ハドロサウルス類など、さまざまな恐竜が繁栄しました。
ただし、今回の足跡の持ち主をティラノサウルスなどの特定の種類に結びつけることはできません。
白亜紀の環境と恐竜の進化については、白亜紀の特徴と恐竜の絶滅でも紹介しています。
歩行痕と遊泳痕は何が違うのか
恐竜の足跡から行動を復元する際、重要になるのが地面との接触方法です。
陸上を歩くとき、足は体重を支えます。一方、水中では浮力が働くため、足が水底に触れる様子が変化します。
水に浮いた恐竜が後ろ脚で水をかくと、指先が泥を引っかき、細長い溝状の痕跡を残す場合があります。
歩行痕と遊泳痕の比較
| 比較項目 | 歩行痕 | 遊泳痕 |
|---|---|---|
| 形状 | 三本指の輪郭など | 細長い溝・引っかき痕 |
| 足の接触 | 足裏や指が接地 | 指先が水底に接触 |
| 浮力の影響 | 通常は小さい | 大きい可能性がある |
| 読み取れること | 歩行・走行など | 水中での足の運動 |
| 注意点 | 地面の状態で変形 | 遊泳以外の形成過程も検討 |
遊泳痕はどのように形成されたのか
カルレラス・パンパで発見された遊泳痕には、直線状の溝だけでなく、コンマのように曲がった形のものもあります。
研究チームは、これらを三つの形態タイプに分類しました。
多くの遊泳痕は、右脚と左脚が交互に動いたことを示すような配列をしています。これは、獣脚類が水中で後ろ脚を使って移動していたという解釈を支える重要な特徴です。
ただし、足跡だけから泳ぐ速さや全身の姿勢を完全に復元することはできません。
恐竜はなぜ水に入ったのか?
恐竜が水辺へ入った理由には、いくつかの可能性があります。しかし、その目的を足跡だけで確定することは困難です。
考えられる三つの行動
① 川や浅瀬を渡る
移動途中に水辺を横断した可能性があります。
② 水辺で餌を探す
魚類や小動物が集まる場所を利用していた可能性があります。
③ 水辺を繰り返し通る
同じ場所が長期間にわたって移動経路として利用された可能性もあります。
大量の足跡が一か所にあるからといって、多数の恐竜が同時に集まっていたとは限りません。
異なる時期に繰り返し通過した結果、多くの足跡が重なった可能性もあります。化石から群れの存在を考える際にも、慎重な解釈が必要です。
足跡だけで恐竜の種類まで分かるのか
足跡には、指の長さや配置、歩幅、移動方向など、さまざまな情報が残されています。
しかし、似た足を持つ恐竜は複数存在するため、足跡の形だけで種類を特定するのは簡単ではありません。
2026年1月、研究者のFalkinghamとGatesyは、恐竜の足跡が形成される仕組みについて詳しくまとめた研究を発表しました。
そこでは、足の構造だけでなく、足の動かし方や地面の性質によっても足跡の形が大きく変わることが示されています。
つまり、形の違う足跡が複数あっても、それが必ずしも異なる種類の恐竜によるものとは限らないのです。
恐竜の分類や進化の流れについては、恐竜の進化とその過程でも詳しく解説しています。
泳ぐ恐竜と海生爬虫類の違い
恐竜が泳いでいたと聞くと、モササウルスや首長竜を想像する方もいるかもしれません。
しかし、これらは分類学上の恐竜ではありません。
| 比較 | 獣脚類恐竜 | 海生爬虫類 |
|---|---|---|
| 主な生活場所 | 陸上 | 海洋 |
| 移動の特徴 | 主に後ろ脚で歩く | ひれや尾などで泳ぐ |
| 水中への適応 | 種類によって異なる | 高度に適応 |
| 代表例 | 獣脚類の各グループ | モササウルス類・首長竜類 |
太古の海に暮らしていた爬虫類については、関連記事日本の海にいた巨大爬虫類もご覧ください。
今回の研究で分かったことと未解明の謎
科学的な発見を理解するには、確認された事実と、そこから導かれる仮説を区別することが大切です。
研究で確認・報告されたこと
- 獣脚類の足跡16,600点が記録された
- 遊泳痕1,378点が記録された
- 遊泳痕に三つの形態タイプが認められた
- 水中での移動を示すと解釈できる痕跡列が存在した
まだ解明されていないこと
- 遊泳痕を残した恐竜の正確な種類
- 水中での体の姿勢や実際の泳ぐ速度
- 水中へ入った目的
- どの程度の時間を水中で過ごしていたのか
まとめ|足跡が教えてくれる恐竜の新しい姿
恐竜は陸上で繁栄した生物ですが、その暮らしが陸上だけで完結していたわけではないと考えられます。
ボリビアで発見された大量の足跡と遊泳痕は、一部の獣脚類が水辺を利用し、水中で移動していたことを考える重要な証拠です。
ただし、すべての恐竜が泳ぎに優れていたわけでも、水中生活を送っていたわけでもありません。
骨格化石が恐竜の体の構造を教えてくれるのに対し、足跡化石は、彼らが実際にどのように行動したのかを考える手がかりになります。
何千万年も前の泥に残された小さな傷が、現代の私たちに恐竜の日常を伝えているのです。
今後、新しい化石や解析技術によって、恐竜たちの水辺での暮らしがさらに明らかになるかもしれません。
参考文献・研究資料
- Esperante, R. et al. (2025). Morphotypes, preservation, and taphonomy of dinosaur footprints, tail traces, and swim tracks in the largest tracksite in the world. PLOS ONE. 原著論文を見る
- Falkingham, P. L. & Gatesy, S. M. (2026). Formation, preservation, and interpretation of dinosaur tracks. Palaeontology. 研究論文を見る