
ティラノサウルス、トリケラトプス、ステゴサウルス、ブラキオサウルス。
どれも「恐竜」ですが、その姿は驚くほど違います。
巨大な肉食恐竜もいれば、首が非常に長い植物食恐竜、角を持つもの、全身を装甲で覆ったもの、羽毛を持つ小型恐竜まで存在しました。
では、これほど姿の違う恐竜たちは、いったいどのように分類されているのでしょうか。
「肉食恐竜」と「草食恐竜」に分ければ簡単そうですが、実はこれは食生活による分け方であって、科学的な恐竜の分類そのものではありません。
現在の古生物学では、恐竜たちがどの共通祖先から分岐したのかという進化上の関係を調べ、巨大な「家系図」の中へ配置していきます。
今回は、ティラノサウルスからトリケラトプスまで、恐竜の主要なグループを進化の家系図に沿って整理していきます。
そもそも「恐竜」とは何なのか
恐竜は、主竜類という大きな爬虫類グループの中から三畳紀に誕生した動物です。
約2億3000万年前には確実な恐竜が存在しており、その後ジュラ紀・白亜紀を通して非常に多様な姿へ進化しました。
恐竜を特徴づける重要な点の一つが、脚が体の横ではなく体の下側へ伸びる直立した姿勢です。
トカゲやワニのように脚を横へ大きく張り出す姿勢とは異なり、恐竜は体重を効率よく支えることのできる骨格を発達させました。
ただし「昔に生きていた大型爬虫類=恐竜」ではありません。
翼竜・首長竜・モササウルスは恐竜ではない
恐竜図鑑などで一緒に紹介されるため、特に間違えられやすいのが翼竜や海生爬虫類です。
プテラノドンなどの翼竜は恐竜ではありません。
恐竜とは近い主竜類ですが、恐竜とは別の進化系統です。
また、プレシオサウルスなどの首長竜、イクチオサウルスなどの魚竜、モササウルスも恐竜ではありません。
これらは中生代に恐竜と同じ時代を生きた爬虫類ですが、それぞれ別のグループです。
「恐竜」は基本的に陸上で誕生・進化した特定の系統を指す名称なのです。
恐竜は「肉食」と「草食」で分類するわけではない
恐竜を理解するとき、最初に覚えておきたいのが食性と分類は別物という点です。
たとえばティラノサウルスは肉食、ディプロドクスは植物食ですが、これは「何を食べていたか」の違いです。
科学的な分類では、骨格などに残された多数の特徴を比較し、どの恐竜同士がより近い共通祖先を持つのかを調べます。
このような共通祖先とその子孫からなるグループを「クレード(系統群)」と呼びます。
そのため、一見よく似た恐竜同士でも遠い関係だったり、まったく違う姿の恐竜同士が意外に近縁だったりします。
恐竜は伝統的に「竜盤類」と「鳥盤類」に分けられてきた
恐竜の分類で最も有名なのが、竜盤類(Saurischia)と鳥盤類(Ornithischia)という二つのグループです。
この分類は19世紀末に提唱され、骨盤などの解剖学的特徴をもとに恐竜を大きく分ける考え方として長く使われてきました。
伝統的な分類を非常に簡略化すると、次のようになります。
- 恐竜類 Dinosauria
- 竜盤類 Saurischia
- 獣脚類 Theropoda
- 竜脚形類 Sauropodomorpha
- 鳥盤類 Ornithischia
- 装盾類
- 鳥脚類
- 角竜類
- 堅頭竜類など
- 竜盤類 Saurischia
ただし、これは分類を理解するための基本的な形です。
恐竜の最初期の分岐については現在も研究が続いており、「竜盤類と鳥盤類」という伝統的な家系図そのものを見直す仮説も提案されています。
竜盤類① 獣脚類|ティラノサウルスから鳥まで
獣脚類(Theropoda)は、恐竜の中でも特によく知られたグループです。
ティラノサウルス、アロサウルス、スピノサウルス、ヴェロキラプトル、コエロフィシスなどが含まれます。
基本的には後脚で歩く二足歩行型で、多くの種類が肉食でした。
しかし、「獣脚類=すべて肉食」ではありません。
獣脚類の進化の中では雑食や植物食へ移行した系統も現れ、テリジノサウルス類のように植物を多く利用していたと考えられる恐竜も存在します。
そして何より重要なのが、鳥類も獣脚類に含まれることです。
つまりスズメやカラスも、大きな進化の家系図では獣脚類恐竜の一員なのです。
ティラノサウルス類
ティラノサウルス・レックスを代表とするグループです。
白亜紀後期に大型化した種類がよく知られていますが、初期のティラノサウルス類には比較的小型で細身の種類もいました。
巨大な頭部と強力な顎を持つティラノサウルスは、この長い進化の終盤に現れた存在です。
ドロマエオサウルス類
ヴェロキラプトルやデイノニクスなどを含む、小型から中型の獣脚類です。
後脚の第2指に大きな鉤爪を持ち、多くの種類で羽毛の証拠が確認されています。
鳥類に近いマニラプトル類の一員で、鳥への進化を理解するうえでも重要です。
竜盤類② 竜脚形類|史上最大級の陸上動物へ
竜脚形類(Sauropodomorpha)には、長い首を持つ巨大植物食恐竜につながる系統が含まれます。
初期の竜脚形類には比較的小型で二足歩行も可能だった種類がいましたが、進化の中で次第に大型化しました。
その中から竜脚類(Sauropoda)が誕生します。
ディプロドクス、アパトサウルス、ブラキオサウルスなどが代表的です。
竜脚類では四足歩行、非常に長い首と尾、小さな頭部、巨大な胴体という独特の体型が発達しました。
さらに白亜紀にはティタノサウルス類が世界各地へ広がり、アルゼンチノサウルスなど地球史上最大級の陸上動物も登場しました。
鳥盤類|名前に「鳥」と付くのに鳥の祖先ではない
鳥盤類(Ornithischia)には、トリケラトプス、ステゴサウルス、アンキロサウルス、イグアノドンなど、多くの植物食恐竜が含まれます。
「鳥盤類」は「鳥のような骨盤」という意味ですが、ここには恐竜分類最大の紛らわしさがあります。
現在の鳥類は鳥盤類から進化したのではありません。
鳥は、伝統的な分類では「竜盤類」に含まれる獣脚類から進化しました。
鳥盤類という名称はあくまで骨盤の形に由来しており、鳥との直接的な祖先関係を意味するものではないのです。
装盾類|鎧を進化させた恐竜たち
鳥盤類の中で特徴的なのが装盾類(Thyreophora)です。
名前の通り、皮膚の中に発達した骨で体を防御する方向へ進化しました。
剣竜類
代表はステゴサウルスです。
背中に並ぶ大きな骨板と、尾の先にあるスパイクが特徴です。
主にジュラ紀に繁栄しました。
鎧竜類
アンキロサウルスなどを含むグループです。
体の表面に多数の骨質の装甲を発達させ、アンキロサウルス科の一部では尾の先に大きな骨の「こん棒」も形成されました。
鳥脚類|植物を食べることに高度に適応した恐竜
鳥脚類(Ornithopoda)には、イグアノドンやエドモントサウルスなどが含まれます。
初期には比較的小型の種類も多くいましたが、その後大型化した系統も登場しました。
特に白亜紀に繁栄したハドロサウルス類は「カモノハシ恐竜」とも呼ばれます。
多数の歯がまとまって機能するデンタルバッテリーを発達させ、植物を効率よく処理する能力を持っていました。
パラサウロロフス、エドモントサウルス、コリトサウルスなどがこの仲間です。
角竜類|小型恐竜から巨大なトリケラトプスへ
角竜類(Ceratopsia)は、くちばし状の口を持つ植物食恐竜です。
初期の種類は比較的小型で、必ずしも巨大な角を持っていたわけではありません。
進化の中で頭部のフリルや角が発達し、白亜紀後期にはトリケラトプスやセントロサウルスのような大型の角竜が登場します。
角やフリルは防御だけでなく、仲間同士の識別やディスプレイなど複数の役割を持っていた可能性が研究されています。
堅頭竜類|分厚い頭骨を持つ恐竜
堅頭竜類(Pachycephalosauria)を代表するのがパキケファロサウルスです。
頭頂部の骨が非常に厚く発達していることで知られています。
かつては、この頭を使って羊のように真正面から頭突きをしたと考えられることが多くありました。
しかし、その使い方については現在も研究が続いており、頭突きだけに限定せず、個体間の争いやディスプレイなど複数の可能性を考える必要があります。
「竜盤類と鳥盤類」だけで本当に決まりなのか?
ここまで伝統的な分類に沿って説明してきましたが、実は恐竜の最も根元に近い家系図については決着していません。
2017年、大規模な解剖学的データの解析によって、従来は竜盤類とされてきた獣脚類を鳥盤類とまとめる「オルニトスケリダ(Ornithoscelida)」という仮説が提案されました。
この仮説では、従来の「竜盤類対鳥盤類」という構造が大きく変わります。
その後の研究では伝統的な竜盤類を支持する結果も示されており、さらに別の系統関係を支持する解析もあります。
2023年の統計的な研究では、恐竜の主要な3系統である獣脚類・竜脚形類・鳥盤類が最初にどのように分岐したのかについて、主要な複数の仮説を現在のデータだけで明確に区別することは難しいとされました。
つまり、学校や図鑑でおなじみの分類は恐竜を理解するために非常に便利ですが、恐竜の家系図そのものも現在進行形で研究されているのです。
恐竜分類はなぜ変わるのか
「昔覚えた恐竜の分類と違う」と感じることがあるかもしれません。
これは恐竜研究が不安定だからではありません。
新しい恐竜が発見されたり、すでにある化石が再調査されたりすることで、比較できる情報が増えているからです。
現在では骨格の形だけでなく、CTスキャンや統計解析なども利用し、多数の特徴を比較して系統関係を検証します。
新しい証拠によって家系図が変化することは、恐竜研究が今も進歩している証拠でもあります。
鳥は恐竜分類の中に残っている
恐竜の分類で最後に覚えておきたいのが、鳥類の位置です。
白亜紀末の約6600万年前にティラノサウルスやトリケラトプスなどの非鳥類型恐竜は絶滅しました。
しかし獣脚類の一系統である鳥類は生き残りました。
そのため科学的には、恐竜を
- 非鳥類型恐竜:ティラノサウルス、トリケラトプスなど
- 鳥類型恐竜:現在の鳥につながる系統
として考えることができます。
恐竜図鑑の最後のページが6600万年前で終わるように見えても、恐竜の家系図そのものは現在まで続いているのです。
まとめ|恐竜の「種類」は家系図を見ると理解しやすい
恐竜には肉食、植物食、小型、大型などさまざまな種類がありますが、それだけでは科学的な分類にはなりません。
恐竜の分類では、それぞれの恐竜がどの共通祖先から分岐したのかという進化の関係が重要です。
伝統的には恐竜を竜盤類と鳥盤類に大きく分け、竜盤類には獣脚類と竜脚形類、鳥盤類には装盾類、鳥脚類、角竜類、堅頭竜類などが含まれます。
ティラノサウルスと鳥は同じ獣脚類の大きな系統に属し、巨大なディプロドクスは竜脚形類、トリケラトプスは鳥盤類の角竜類に位置します。
ただし、恐竜の最初期の分岐については現在も研究が続いており、家系図が将来変化する可能性があります。
恐竜の分類は、名前を暗記するための表ではありません。
それぞれの恐竜がどのような祖先から分かれ、なぜこれほど違う姿へ進化したのかを読み解く「進化の地図」なのです。
恐竜がこれらの姿へどのように進化したのか詳しく知りたい方は、「恐竜はどう進化した?|小さな二足歩行動物から巨大恐竜、そして鳥になるまで」もあわせてご覧ください。