コエロフィシスはなぜ三畳紀を生き抜けたのか|恐竜がまだ主役でなかった時代の選択
コエロフィシスは、恐竜図鑑では「初期の肉食恐竜」として紹介されることが多い存在です。しかし、その姿をよく見ると、私たちが思い浮かべる“恐竜らしさ”とは、どこか違って見えます。
細身で華奢な体つき。巨大でもなければ、圧倒的な存在感もない。むしろ、後の恐竜たちと比べると「本当に恐竜なのか?」と感じる人もいるかもしれません。
実はその違和感こそが、コエロフィシスを理解するための重要な手がかりです。
恐竜という概念が、まだ定まっていなかった時代
コエロフィシスが生きていた三畳紀後期は、「恐竜の時代」と呼ばれるには、まだ早すぎる時代でした。
この頃の陸上生態系では、主竜類や古代ワニ類など、恐竜とは異なる系統の爬虫類が数多く存在しており、どのグループが主役になるのかは決まっていませんでした。恐竜という分類自体が、まだ輪郭のぼやけた存在だったのです。
コエロフィシスは、まさにその境界線上にいた生き物でした。
「恐竜らしくない」体のつくり
コエロフィシスの体は、後の獣脚類恐竜と比べると非常に軽量で、どこか不安定に見えます。骨は中空で、全体的に細長く、力強さよりも動きやすさを優先した構造です。
これは「未発達」だったからではありません。当時の環境では、巨大化やパワーよりも、生き残るための柔軟さが求められていました。
コエロフィシスは、恐竜的な特徴を持ちながらも、まだ“恐竜らしさ”に振り切っていない存在だったのです。
恐竜と、それ以外の生き物のあいだで
三畳紀の陸上では、恐竜とよく似た姿をした生き物が数多く存在していました。二足歩行をする主竜類や、肉食性の爬虫類など、見た目だけでは区別が難しいものも珍しくありません。
コエロフィシスも、その一つに見えるかもしれません。しかし、骨盤の構造や脚の付き方など、細かな部分を見ると、確かに恐竜側の特徴を備えていました。
彼らは、恐竜という系統が「こちら側だ」と定まり始めた、その最初期の例だったのです。
大量の化石が示す「成功」
ニューメキシコ州ゴーストランチで発見された大量のコエロフィシスの化石は、彼らが一時的とはいえ、環境にうまく適応していたことを示しています。
もし彼らが、時代に合わない中途半端な存在だったなら、これほど多くの個体が残ることはなかったでしょう。
コエロフィシスは、恐竜として完成する前段階の姿でありながら、その時代においては“正解”だった生き物でした。
なぜコエロフィシスは消えたのか
やがて環境が変わり、恐竜たちはより大型化し、より専門化していきます。その流れの中で、コエロフィシスのような「中間的な存在」は、次第に姿を消していきました。
それは失敗ではなく、役割を終えた結果だったとも言えます。彼らがいたからこそ、恐竜は“恐竜らしい恐竜”へと進化することができたのです。
まとめ|コエロフィシスは「恐竜になる途中」だった
コエロフィシスは、完成された恐竜ではありませんでした。しかし、それこそが彼らの価値です。
恐竜という存在が、まだ定義されていなかった時代。コエロフィシスは、その輪郭を形づくる途中にいた恐竜でした。彼らは、恐竜の始まりを静かに支えた存在だったのです。